2015-02-26

能登と日本酒と発酵文化

半分仕事、でも半分は興味本位という立場で、この冬は二軒の酒蔵を回りました。冬から春までの間に能登では酒作りが続けられます。能登には昔から能登杜氏と言われる酒作りの職人集団がいて、日本の各地で活躍するほど、日本酒との関わりが深い土地です。

先日お伺いした羽咋市の御祖酒造では、祖父の後継に東京からやってきた女社長の藤田さんと、杜氏の横道さんが酒作りのお話をしてくれました。この酒蔵で作られる酒は県内以上に、東京などの大都市で毎年完売してしまうそうです。その訳は、料理に合う酒、食中酒を作ることに魂を注いでることから、そのこだわりの味が都会の客層に受け入れられているからだそうです。


樽の中を覗くとふわふわに膨れた発酵の力に驚きました。


杜氏である横道さんはとても丁寧に酒作りのことをお話ししてくれ、なおかつその論理的な知識の深さにも関心しました。藤田社長はとてもお茶目な方で、横道さんとのやりとりはまるで漫才コンビです。ただ、お互い酒作りの話になると目が真剣になり、ぜったいに曲げられないこだわりのようなものを感じました。



もう一つの酒蔵は私の友人の酒蔵、松波酒造。ちょくちょくお客さんを連れて酒蔵見学などをよくさせてもらっている場所です。僕は本当にこの酒蔵の雰囲気が大好きで、カメラを持つと我を忘れてシャッターを切ってしまうほど、味のある酒蔵です。

伺ったのは昨年末の酒米を蒸す作業の時でした。松波酒造は家族経営の昔ながらの小さな酒蔵です。蔵の中の道具や機械も年季の入ったものばかり。



 杜氏は私も仕事で関わりのある上黒丸地区の方でした。昔から使われている古い釜で蒸しあがった酒米を少しだけ味見させて頂き、予想に反してもっちりして甘みがある味に驚きました。


松波酒造のお酒は友人で僕と同じ年の聖子さんが、この小さな酒蔵で作った酒を精力的に販売しています。今では海外でも取り上げられ、日本以外でも販売しているほどです。


もうすぐ能登杜氏を題材にしたドキュメンタリー映画も上映されます。題名は「一献の系譜」。監督は「ひとにぎりの塩」という、珠洲の塩田を舞台にしたドキュメンタリー作品の石井かほり監督です。彼女は能登杜氏の酒造りはもちろんのこと、上黒丸地区にも何度も訪れて撮影をしていました。珠洲の棚田や米作りの風景、そして上黒丸のアエノコトをドキュメンタリーの素材として使うため、二年間沢山の時間を費やし、撮影をしていたようです。

発酵食品とそれに繋がる能登の里山里海の文化は、いま再びスポットライトがあたり、注目さてているようです。能登の埋もれた宝が再び磨かれて人々の手に届くことに、この地に暮らす人間として喜びを感じます。



「一献の系譜」公式サイト:http://ikkon-movie.com/project/index.html




2015-02-10

伝える力


吹雪のある日、珪藻土コンロを生産する能登燃焼器工業へおじゃまさせて頂きました。案内をしてくれたのは舟場さん。東京で公務員の仕事をしていたのですが、父親の後を継ぐべく数年前に30代の若さで珠洲へ戻って来た方です。

珪藻土コンロは昔、珠洲を代表する主力産業で、法人、個人問わず珠洲のいたるところで生産されていました。人々の火の扱いが、炭からガスへ移るとともに生産量が減り、珠洲でコンロを生産する会社は今では数社を残すのみとなっています。

最初に舟場さんは珪藻土の採掘場である坑道へ案内してくれました。迷路のような暗い坑道の奥深く、黙々と珪藻土の壁を削る職人がいました。職人は一人、槍の様な長いノミを使い珪藻土の壁を四角く削っています。誰もいない暗い坑道でザクッ、ザクッという音を響かせ一人黙々と作業する職人の後ろ姿が印象的でした。





坑道を出ると舟場さんのお父さんが、坑道から削りだした珪藻土の固まりを整形していました。機械で丸くされた珪藻土の固まりを、感覚だけで整えていきます。底の接地面は平らでないと商品にした際に傾いてしまうのではと疑問に思いお伺いしたら、「感覚で水平にする」と答えが帰ってきました。船場さんのお父さんは、平らなノミを取り出すと、チョコレートを削るようにザクザクとコンロの底を平らに整えていきます。

「ここまで出来るようになるには30年はかかる」

お父様が言われたその言葉には、18才からこの道に入り、40年以上休みなく働いてきた職人の重みがありました。


 様々なコンロの形に合わせ沢山の種類のノミがあります。



整形後は窯で焼かれ、金具で補強すると珪藻土コンロに仕上がます。暗い坑道の中で発掘されるかのように切りだされるプランクトンの化石、珪藻土。その珪藻土の塊を地上へと掘り出し、再び命を吹きこむように成形して形作られた珪藻土コンロ。こんな行程をたどり一つのコンロが出来上がる事に驚きを感じます。

今の時代だからこそ、1つのモノが完成するまでのものがたりをしっかりと伝えることが重要視され、こうした古くからあるモノ作り産業も再び陽の目を見ることに繋がるのかもしれません。



2015-02-03

能登の冬


雪かきに毎日追われるような冬はどこへいってしまったのでしょうか。2月に突入しても、すぐに溶けてしまうような雪しか降ってきません。

北陸の冬、とくに能登は豪雪地帯と思われている方もいるかもしれませんが、一部山間部を除いて、海岸部と平野部はそれほど雪が積もりません。とくに珠洲は高い山も少なく、一部の地域を除いては、雪囲いをして家を守らなくてはいけないほどの雪は積もらないのが現状です。








冬の時期は外出が億劫になってカメラを持ち出す機会も減るのですが、たまに外へ出かけると、能登の冬の美しさに心を奪われます。

冬から春に変わっていく、その移り変わりにも目をむけてゆきたいと思います。